2021年4月19日付けの朝日新聞の天声人語に若年介護、いわゆるヤングケアラーについての記事が載っていました。
作家の川端康成氏も中学生の頃祖父の介護をしていたということから、ヤングケアラーの立場にある子供たちについての最近の全国調査の結果にも話が及んでいます。
最近の調査でヤングケアラーと呼ばれる中高生はおよそ20人に1人という驚くべき結果が出たことは記憶に新しいことでしょう。
今やっとスポットライトを当てられつつあるこのヤングケアラーについて、いったい国内ではどういった実態なのか、なぜこういったことが問題化するのか、
さらに今後の対応策について提言されていることなどについてまとめました。
ヤングケアラー(若年介護)とは?厚生労働省の調査でどういう状況を指すか?
厚生労働省のサイトによると、ヤングケアラーとは「家族に介護を必要とする人がいる場合に18歳未満の子供が家事・介護・精神面のサポートなどの大人が担うような責任を引き受けること」と定義付けています。
具体的には、つぎのような10の状況をあげています。
- 料理、洗濯、買い物、掃除などを障がいや病気の家族に代わってする
- 幼いきょうだいの身の回りの世話を家族の代わりにする
- 障がいや病気のあるきょうだいの見守りや世話
- 目が離せない家族(認知症などで徘徊するような場合)の見守りや声掛け
- 障がいや病気の家族の入浴や排せつ介助
- 第一言語(母国語)が日本語でない家族、障がいのある家族の通訳をしてあげる
- 家族が病気や障がいのため家計を支えるための仕事をしなければならない
- アルコール、薬物、ギャンブルなどの問題を抱えている家族の対応
- ガン、難病、精神疾患のような慢性的な病気の家族を看病する
- 障がいや病気のある家族の食事の介助といった身の回りの世話
(「一般社会法人日本ケアラー連盟2015」より抜粋)
18歳未満と言えばまだまだ友人とも遊びたい盛り、たくさんの学業にも好奇心が芽生える時期です。
学校が中心の世界であるべき世代の子供たちが時間や体力、メンタルまでもすり減らし、こういった家庭内の問題に向き合っていることがやっとメディアで明るみになったという印象があります。
国や地方自治体でもひっそりと取り組んでいたそうですが、こうして全国版で改めて知った、という日本人は少なくないのではないでしょうか。
欧米のヤングケアラーの事情は
海外に目を向けると、ヤングケアラーについては日本とは違う経路をたどっていることが分かります。
例えば、イギリスの場合1980年代からこの問題には取り組んでいた経緯があります。イギリスでは、労働者階級にアルコール中毒や精神疾患を患った人が多いため、家庭内で子供たちにそういった大人が及ぼす悪影響が取りあげられていたのだそう。
実態調査がすすめられ、1995年には「ケアラー法」が制定され家族介護者への支援策が盛り込まれした。
また、2014年にはヤングケアラーに対しても教育・就労・財政面での支援をする改訂がされました。
現在イギリスでは、放課後にヤングケアラーの子供たちが集まって交流を図り自分の想いが吐き出せる場を設ける仕組み作りがされているのだそうです。
教員のみならず、NPO等のボランティア団体が積極的にこういった取り組みに参画しているのだそうです。
なぜ日本ではヤングケアラーが大きな話題にならなかったのか
2012年の総務省の調査で15~29歳の家族の介護を担う人は17万8000人、2017年には21万人に増加したことが分かっていますが、そのうち18歳未満の人数までは把握されていませんでした。
これを受けて2018年、2019年度の厚生労働省の調査で全国の自治体でヤングケアラーと思われる子どもの実態を把握していると答えたのは3割ほどでした。
こういった調査は家庭内のプライバシーにかかわることで、当事者が18歳未満ということもあって本人が発信しない限りなかなか状況がつかみにくいという現状もあるでしょう。
本人が介護を離れた生活の大半を過ごす学校でのサポートやケアが必須である理由はこういったことにもあります。
そもそも日本は、「人様に迷惑をかけてはいけない」とか、「身内の恥は表にさらすべきではない」といったことを美徳とするところがあるのでは、と危惧してしまいます。
もちろんこういった考え方は両刃の刃で、日本人の美意識が世界レベルで称賛されていることも忘れてはならないでしょう。
ただ、未来のある子供たちの大切な時間を守らなければならない事は世界共通のテーマであり、出遅れた感のある日本人も遅まきながら社会全体でこの話題をオープンに話し合い、手を尽くすときが来たのではないでしょうか。
これからの取り組みとして社会全体が意識をもつこと
ヤングケアラーとして疲弊していることが分かったきっかけの第一位は「当事者の子供たちからの声」だという調査があります。
学校の先生や、ケースワーカーなどが家庭訪問してヤングケアラーの存在に気付く、という周りの大人からの発見ではわかりにくい所に問題があります。
家庭内の問題は表面に出にくく、学校の宿題や出席がままならないレベルで察知することが難しいという問題があります。
文部省では、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーによる支援を促進するように通知しています(令和2年5月14日付)が、家庭内のことでも普通に「相談していい」「頼っていい」「あなたにはもっと勉強して遊ぶ権利があるのだ」という場がすべての子に与えられていることを、どうやって子供たちに伝えていくかが課題になるでしょう。
先のイギリスの例でも、放課後のプログラムに参加することで、同じ境遇の友人に出会い、元気を取り戻して自分自身の境遇に嘆いてしまうのではなくむしろ堂々としていられるような環境作りがされたと言われています。
日本の社会全体が、話しやすい雰囲気作りをすることからスタートしてほしいものです。
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